
「待ちの商売」と「自分ゴト」 – 経営面での考え方について
栗田:お店をオープンしてから、経営面で感じることって何かありますか?
岩崎:まず、飲食店って「待ち」のビジネスなんです。会社員時代の営業のように自分から行くのではなく、お店でお客が来るのを待っているのが基本。SNSで呼び込むっていう考え方はあるけれど、僕は瞬間でバズらせることはしないと決めてる。バズって瞬間的に集客のピークをつくるのではなく、じわ~っといきたい。だから、来てくださった方に、ちゃんと価値を提供していくって決めています。そう決めた以上は、価値提供をした方に対してどんな評価をされて、さらにまた来てくれるか、来てくれる理由をどうやって作るのかを考えて、実践することは非常に難しいと思います。
栗田:じわじわコツコツとやっていきたいと。
岩崎:ただ、じわ~っとやっていくとなるとやっぱり辛抱いるんですよ。来る理由っていうのをどうつくるか。メニューも味も全て自分で決めるので、サラリーマンの頃とはやっぱり違う。全部が自分ゴト。僕は法人の代表だからそれは当然だけど、僕だけでなく仲間の全員が自分ゴトなんですよ。これはいいことだなと思っていて、僕もビジネスパートナーの近藤さんも、店長も、全員が全部自分ゴトとして考えている。店長はいち社員だけど、「私、これは嫌だ」とか、「嫌だけど、これはやる」とか、「個人的には好きだけど、これはやるべきじゃないと思う」とか、はっきり言う。皆が主体的なんですよ。
栗田:皆さんそれぞれが役割をもちながら、自分の意見もしっかりと出す。自分ゴトで主体的ですね。

栗田:ちょっと違う角度からお伺いすると、岩崎さんって、年齢とともに天満と様々な関わり方をしてきたことで、町に対する捉え方・見方も色んな角度や視点で持っているような気がしたんです。例えば、若い頃のように「天満に遊びに来る側の自分」だったら、自分の店を見てどう感じるだろう、と考えることってあるのかなと思ったのですが、いかがでしょうか?
岩崎:実際、「自分がやってる店に、自分が行くのか?」っていうのは、ずっと自問自答です。行きたい店はもっとベタな店かもしれへんし、お好み焼き屋やたこ焼き屋かもしれへん。その一方で、自分が目指す世界もある。その日限り、その場限りの美味しさや楽しさが大切なのか、目指す世界があってそこへ向かうために何が必要なのかを考えるのは、やっぱり立場が明らかに違う。そうかといって、自分が嫌なことはやりたくない。 岩崎:飲食でも、自分が食べたいと思わないものを提供するなんてことはもちろんしたくないし、絶対に出さない。例えば、僕が寿司を握るのが得意で寿司が好きだったとして、好きな寿司のことを勉強して、寿司を握って人に食べてもらうのが自分にとって絶対ベストなんだ!って思って寿司屋をやる。「自分の好きなことをつきつめて商売にする」のは一番美しいのかなと思う。そういう考え方っていうのは、たぶん飲食店の王道なんかなと思うんです。けれど、自分の目指す世界やありたい姿と、あるべき姿と、今の現時点を、どう繋げていくかってプロセスを考えてやっていくことは、そう簡単にはいかないところがありますね。だからビジネスになるんだと思うんですよね。

年齢とともに変わってきた町の人との関わり方
栗田:あと、岩崎さんの天満の町との関わり方は、年齢とともに変わってきたと思いますが、今の町との関わり方についても、もう少しお聞きしたいです。
岩崎:最初若い頃、南森町は仕事の場でした。次に、お客として天満天神の店に馴染んでました。その次は天満に住む人として町と関わり、そして今は、商店主として町と関わる面白さがあります。お店の人としていろいろやっていると、町のオーナーさん、社員さん、店員さんがめっちゃ挨拶してくれる。ウチのお店の常連さんではないどこかの奥さんや、犬の散歩をする人が挨拶してくれる。そういう関わり方の種類、町の人との関係がどんどん変わっていきます。
昨年の天神祭でも、商売として関わったり、イベント的に店先で串を焼いて売ったりしてると、たまたま祭に訪れた学生が「オモロそうやな~!」って言って近寄ってきてくれて、その後しばらくして、串焼きを売るのを手伝いに来てくれたこともありました。また商店会の人達が、獅子舞やとか太鼓やとか何とかっていろいろやって来て、それで面識を持つようになって、僕も「ご苦労様です~」って挨拶に行って、賄いしてみたいな。そうした祭りの当事者としての参加もしました。
栗田:町の人たちとの関わり方がどんどん変化しながら、広がっていったんですね。

岩崎:特に大きかったのは、祭りに関する作法っていうんかな。祭りの出店の仕方とか、保健所の人が来た時にどんなふうに対応したらいいか、とか、人の出が何時くらいから増えて、オープンを何時からすればいいか、とか、もっと細かいこと言えば、ここまでは出ていいけど、ここから出たらあかんで、とか、そういう作法をすごい教えてくれました。
栗田:祭りならではの町の人たちとの協力関係や一体感を感じますね。
岩崎:もう1つ、天いち音楽祭の話をすると、音楽祭をやっている時に、一カ所、謝りに行かなあかんことがあって、「僕が行ってきますわ~」って言ったら、他のお店の人も一緒に来てくれたことがありました。だからお店同士はライバルなんだけど、一緒の仲間。「ご近所さん」っていう感じ。お店を始めて、天神祭や天いち音楽祭に参加をして、隣の店の人とも、その隣も、さらにその隣も、向かいも、斜め向かいのお店とも、皆仲良くなりました。
そういうのが店主としてやっていて起こってきた変化です。ただこれは別に僕のお店のことだけではなくて、例えば僕が栗田さんと一緒に、別の商店街でお店をやりますとなったら、同じことが起きるよ。また例えば、僕と栗田さんが同じ法人にいるとしたら、我々の法人と町の人との関係性が、今とまた違う変化をする。これはね、すごく面白いと思いますよ。
栗田:そんなにもダイナミックに変わるんですね。何となく僕のイメージだと、商店街で何かお店をやろうと考えている人って、昔から商店街で商売している人たちに気を遣ったり、組合の中での「しきたり」のようなものを必要以上に考えてしまうあまりに、出店を躊躇ったりすることもあるんじゃないかなと思っていたんです。でも、岩崎さんの場合はそんなことなく、自分から町の人との関係づくりに飛び込んで行ったり、そこから町の中での作法を教わったりと、町の人たちとのお付き合いをすごく大事にしていますよね。

岩崎:実際のところ、そんな難しいことを考えてなくて、商店街の先輩を立てましょう、くらいかな。商店街の先輩の教えを請いましょう、先輩方に求められたら応えましょう。というくらい。あと、今回僕が天いち音楽祭に参加させてもらっていて、町で文化的な仕掛けをされている方から、ともにこの場所を変化させていきましょう。っていう気概をすごい感じた。
栗田:気概ですか。
岩崎:この天神橋 1丁目商店街っていうのは、天神橋筋商店街の中でもアーケードがないんですね。だからこそ「何か」を起こさないといけない。待っているだけでは変化が起きない。そういう特徴がある場所なので、1丁目のお店の人たちは、「ソトの人」が多いように思うんです。この辺りが地元やけど、1丁目で生きてきた人じゃない人。いろいろ話を聞いていると、「1丁目は自分が育った場所じゃないけど、この場所を愛して、商売も含めて主体的に変化をさせていこうって」いう気概みたいなものをすごく感じた。誰が言い出したわけでもなく、この気概を感じるのは素晴らしいなと思っていますね。
栗田:一連のお話から、岩崎さんって若い頃から天満の町との関わりはあったけれど、今の商店主として町の人たちとの関わり方が、一番深くて濃いように思いました。
岩崎:そうですね、深くて濃い。マチコの最終プレゼンで「たこ焼き屋やります」って言った時もそうだったように、身銭を切って飛び込んできた人を評価する。まずは認められる。そこがスタート。あの時からなんかずっと思ってたんです。やっぱり。やっぱりそうだったなと。僕とか栗田さんとか、あの時に思っていたことはそんなにずれてなかったかもしれないね。まだまだ他の先輩たちに全然及んでいないけど、そう思う。
栗田:マチコでのことを実践なさって、あの時の思いとズレはないとさらに思ったんですね。
岩崎:やっぱ町の人たちの中に入らんと相手にしてくれへんよね。だから本当に何かあったときには、必ず挨拶をさせていただいてます。それが町を元気にするというか、商売を起こすときの最低限のスタートラインちゃうかな。
栗田:たしかに、町の中で何かやろうと思っても、やっぱり商店街の人からすると構えますもんね。
岩崎:そこは構えますよ。もちろん歓迎をしてくださるお店の方もいらっしゃるし、様子を伺うというか、構える方もいる。色んな人がいます。
マチコに参加をして、岩崎さんが得たもの

栗田:今回のお話のまとめとして質問しますと、元々法人を立ち上げていたということから、仮に今回のマチコに岩崎さんが参加をしてなかったとしても、お店はオープンしていただろうなと思うんです。でも、マチコに参加したことによる違いというか、参加をしたからこそ得たものってありましたか?
岩崎:まず、「仲間ができる」ってことですね。これ、すごく大きいなと思うんです。例えば、今年度のマチコやおおさか商店街オープンに、ウチのお店を紹介してくれたり、マチコ2期のワークショップがあった12月に、運営の皆さんがクリスマスのパウンドケーキを買って紹介してくださる。これは大きいですよ。これはうちと僕らの商売にとってもすごいポジティブでありがたい話だし、さらに2つめとして言うと、僕ら時の参加者や、僕らの以降でマチコやおおさか商店街オープンに参加をされている方にとっても、「実際に店を開いてる人おるやん」って、「日々苦しみながらこんなパウンドケーキ作れるようになっとるやん」っていうのを、感じとってくれる人っていると思うんだよね。
栗田:商売的にありがたいというだけではなくて、マチコやおおさか商店街オープンのつながりの中で、良い影響を与えられる仲間ができたということですね。
岩崎:ちょっと偉そうな表現になるけど、皆さんに感じれるような働きかけができる。皆さんのお役に立てるっていうのは、マチコに出たからこそだと僕は思ってるんです。例えば今回この取材をして私の話を聞いてくれたり、今年度のマチコの最終プレゼンに僕を呼んでくれたり、ナゴノダナバンクのみなさんが来てくださったり、マチコに参加した人たちが、仲間として助けてくださったり。栗田さんもお店のオープンの翌日に来てくれました。これはもう本当に勇気になります。助け以外の何物でもない。感謝しかないです。
栗田: 僕もお店をオープンされたと聞いてすぐに伺いましたもんね。(笑)
岩崎:また、参加したからこそ得たこととしては、「自分たちが間違ってないんだ」っていう勇気。栗田さんをはじめ一緒になったメンバーや、講師の方。講師と言っても別になんでもなくて、地域を何とか元気にしようやという人やから、それはすごい勇気になる。
あともう1つは、僕らが完全に目指している文化や地域へのアプローチに対して、市原さんはじめ建築の世界のプロである方とも、一緒になってやっていく仲間ができたことですね。いわゆる建築家やランドスケープデザインの方のアプローチって、極めて目に見えるものを扱うから、具体的・現実的なものになっていて、文化とか地域とかの視点はあるけれど、アプローチとしては抽象度の高いものになっている気がする。目に見える具体的なものであるからこそ、それがゴールになって、文化とか地域とかのそのアプローチが抽象度高くても、ある種、他人ゴトとして展開されてしまうところがあると思うんですけど、市原さんのアプローチを聞いていると、そうでない人もいるんだなと思った。
栗田:いわゆる建築家と呼ばれる人達がいる一方で、ナゴノダナバンクの市原さんのような人もいるんだと。
岩崎:だから僕はナゴノダナバンクの皆さんから評価してくれてるんだと思う。いや、まだまだやな、これからやなっていう評価もあるかもしれないけど、建築ではない、文化的な視点からの展開っていうのね、お店に額装して掛けている昔の町の写真を手に入れてくるプロセスがあることは評価する。けど、お店の内装がすごいとか、白い壁に額を掛けていることをデザイン的に評価するわけではきっとない。という気がするんですね。本来僕らがアプローチしていきたい手法というのが、ある種、受け入れられつつある。自分たちの考えや思いを一緒にできる仲間ができるとすごい嬉しい。
栗田:ありがとうございます。それだけ多くのことをマチコへの参加をして得られたんですね。
僕もマチコに参加をして思ったことは、単にお客としてお店に食べに行く、買い物をしに行くっていう「お客さん-お店の人」っていう関係だけで言い表せないものが、マチコから生まれてるなぁって思います。参加者や講師という関係を超えて、「みんなで町を盛り上げていこうや」という感じ。
岩崎:ええ。ほんとそうです。
栗田:マチコに参加をしたことで、町との関わり方とかまちづくりへの参加の仕方っていうものが自分の中で持てると思えたのが楽しいです。それまでは、家族や友人との会話で「なんかいいい店できたらしいから行ってみよか」とか、「あの店、いつの間にか閉店してるやん」っていう、いち消費者の会話で終わりがちでした。でも今はそうじゃない。自分も何か大阪とか地元とか、皆さんが住んでらっしゃる町を盛り上げていけるようなお役に少しばかり立つことができるんじゃないか。そう思えたことが楽しいなと思うんです。
岩崎:僕はマチコでのつながりに加えて、実際に店をやってみて、地域の方とも共に「発展していこう」っていうんかな。このキーワードって大切な気がしましたね。上からでも下からでもなく、ともに発展していこうと。どんなに小さなことでもいいけど、この町を何とか変化させていこうよっていう努力が、チームに繋がっていくんとちゃうんかな。
栗田:これからも一緒に町を変化させていきましょう。今日はたくさんお話を聞かせていただきありがとうございました。
