
大阪の都島区大東町にある大東商店街。昭和25年から大東商店街の名称で半世紀以上にわたり、多くの人に親しまれてきました。
そんな大東商店街におおさか商店街オープンを通じて、2025年5月にオープンした『まちたね cafe&books』の店主、中田さんにお話を伺ってきました。

—— まちたね cafe&booksさんが生まれることとなったきっかけを教えていただけますか?
中田:わたしは、大学時代にまちづくりを学んでいたのですが、その頃からずっと「お店を通じて、地域の人たちが自然体で、ゆるやかに過ごせる場所を生み出していきたい」、「1つのお店がまちの雰囲気や流れを変えることがある」ということを考えていました。
その想いが私の中でずっと根強くあったこともあり、大学卒業後は商業施設の企画やお店の誘致の仕事に携わってきました。
ただ、実際には大きな商業施設や店舗に関わる仕事が中心となることが多く、なかなかローカルな場所でのお店づくりに関わる機会がありませんでした。
そんななか、目に止まったのがおおさか商店街オープンという取り組みでした。「これは、ローカルな場所でのお店づくりを体感できる機会かもしれない!」と思い、参加することにしました。ちょうど独立をして自分の会社を立ち上げようと動いているタイミングだったので、まるで参加を導かれているような気分でした。

—— その時はまだ自分でお店を開こうと考えていた訳ではなかったんですか?
中田:そうですね。初めは、自分でお店を開くという考えはなかったんです。お店づくりを学びたかったことと、自分の経験してきたことが役に立てば…という気持ちで参加したので。まさか自分でお店を開くとは思ってもみませんでした(笑)

—— そんななか、自分でお店を開こうと思ったのはどうしてですか?
中田:おおさか商店街オープンに参加していくにつれて、私の昔からの想いに立ち返り、「自分自身が大切にしている価値観や、お店を通じたまちづくりのあり方を表現できるかもしれない!」と感じたこと。
そして何より、お店を開くことへの背中を押してくれたのは、大東町の方々の存在ですね。大東町は、私にとっては繋がりのない場所なので、初めは不安だったのですが、みなさんとても温かくて親切な方ばかりで。新しいお店ができることを歓迎し、応援してくださいました。家主さんもとても親切にしてくださるので、居心地も良くて。そんな大東商店街だからこそ、拠点を構えても安心だなという気持ちになりました。
あと、おおさか商店街オープンは、チームで進める取り組みなので、試行錯誤を一緒にできる仲間がいることや、大阪市が後ろ盾となってサポートしてくれる安心感もありました。
そういった地域の人たちと関わり、チームで話をし、企画を考えていくにつれて「これだけ条件が整っているチャレンジの機会は、もしかしたら今しかないかもしれない!」、「まちの方に向けて考えた新しいお店の企画を実現させたいという気持ちも強くなり、チームで考えた企画を誰かに任せるのではなく、自分でやってみよう」と思うようになりました。
もちろん不安もありましたが、「後悔しないようにチャレンジしたい!」という気持ちが勝って、思い切ってお店のオーナーになる決断をしました。


—— お店づくりをしていて、どんなところに苦労しましたか?
中田:私は設計やDIYをしたこともなかったので、始めるまでは何がいるのかも分からなくて。周りの皆さんに教えていただきながら、毎日いろんなショッピングサイトを見ては、発注の嵐でした。壁や床の塗装もすごく大変でした。「この空間、全部塗らなくちゃいけないんだ…」って途方に暮れましたね(笑)
でも、そんななかで、商店街オープンのチームメンバーやナゴノダナバンクの皆さん(特に市原さんには設計面でかなりアドバイスをいただいてありがたかったです)、そして、友人や知り合いの皆さんがたくさん手伝ってくださって。そうやって一緒に動いてくださる皆さんがいたから、「今日はここまでやろう!」と、ポジティブに考えて乗り切ることができました。


—— 店名にcafe&booksとありますが、カフェとシェア型書店を組み合わせたのはどうしてですか?
中田:まず、このお店をつくるにあたって「お店だけで完結するのではなく、まちの皆さんに関わっていただける余白のある場所にしたい」という想いがありました。
そんな想いから、シェア型書店という仕組みを採用しました。店内にある本棚の1箱を個人や団体の方に借りていただき、それぞれの好きや伝えたいことを、本という形で表現できます。こうした仕組みは、私が目指している「まちとつながるお店」というあり方にとても近いと感じました。
例えば、ある棚は、まちのお子さんに読んでもらいたい絵本や知的好奇心をくすぐる本を並べたり、ある棚は、大人に向けた旅や食の本、短編小説を並べたり。そんなふうに、誰かの想いが棚に宿るような場所になるといいなと思っています。

開業してから感じたこと、そしてこれからの展望
—— オープンしてから2ヶ月が経ちましたが、いかがですか?
中田:カフェとしてのあり方や、お客様の過ごし方が少しずつ見えてきました。最初の頃は手探りだった部分もありましたが、今は日々のリズムができてきたように感じます。
最近は、カフェとしての利用だけでなく、焼き菓子を買いに寄ってくれる人も多いんです。焼き菓子は店長が作っているのですが、本当に美味しいんですよ。私は全国いろんな場所をめぐり食べ歩くのが趣味なので、食にはこだわりがあるのですが、店長が作るものは本当にどれも美味しくて、自信を持っておすすめできます。チーズケーキやスコーンは、お手土産としてもおすすめなので、ぜひ一度味わってみてほしいですね。

—— 店長さんのお菓子作りのこだわりを教えてください。
店長 : 元からお菓子作りが大好きで、よく自分や周りの方向けに作っていたんですが、もっと美味しい物を作りたくて、お菓子作りの勉強を兼ねて海外に何度か行った際、いろいろなお店の焼き菓子を食べ歩きました。日本人と海外の方の味覚はちょっと違うので、海外のいい部分を取り入れつつ、自分なりに日本人の好みに合うよう、材料や焼き方、口当たりを調整したオリジナルのレシピでお菓子を焼いています。

—— これから、どんなお店にしていきたいですか?
中田 : 今後は、まちたねをもっとまちの方々に活用いただける場所にしていきたいと思っています。例えば、先ほど話題にも出ましたシェア型書店ですね。本棚の1棚を「オーナー」として借りていただき、本を通じておすすめを共有していただく。あるいは、店内の小上がりスペースでイベントを開催したり、地域の方が使えるレンタルスペースとして活用してもらう。実際に、ヨガ教室として使ってくださった事例もあります。
まちたねがカフェや本棚だけでなく、まちの中のちいさな活動が自然と芽吹いていく場所になればと願っています。

—— まちたねが種となって、大東商店街がどんどん楽しい場所になっていく未来が見えますね。
中田:このお店を通じて、地域の方同士の新たな繋がりが生まれたり、ちょっとした賑わいが商店街全体にも広がっていって。そして、そうした動きが種となり、「大東商店街で自分もお店を開いてみたい」と思う方が現れてくれたら、と願っています。
この地域には、新しい挑戦をあたたかく応援してくれる方たちがたくさんいます。そんな環境のなかで、ちいさなお店が少しずつ増えていく未来があれば、とても素敵だなと思っています。
まちたねさんをいつも見守ってくれている、『婦人服店 ヨコヤマ』さん

—— 横山さんは、まちたねさんがオープンされると聞いて、どんなお気持ちでしたか?
横山:とってもとっても嬉しかったですよ。すっごく楽しみで仕方がなくてね。若い人が、新しいお店を出してくれるなんてね、そりゃ嬉しいですよ。
中田:ありがとうございます!オープンまでもチラシを置いてくださったり、すごくサポートしてくださって。本当に心強かったです。
横山:まちたねさんができてからね、お若い方が来られたり、日曜日にも人が通るようになったんですよ。今までと全然違いますよ。雰囲気が明るくなりましたよ。本当に開いてくれて嬉しい。
—— 商店街オープンに参加されるきっかけはなんだったんですか?
横山:フラダンスの教室を開いている多田さんがね、やろう!って言ってくれてね。私も大賛成したんですよ。だって、この商店街はもう若い人が少ないから。どんどんお店がなくなってしまうでしょう。そんなの嫌だものね。新しいお店を開いてくれて、商店街が良くなればと思ったから、多田さんを全面的に応援したんです。
中田:商店街は、総会を開いたり、イベントを行ったりと、前向きに商店街を良くしよう、若い方にも喜んでもらおうという方が多いと感じます。みんなで支え合いながら自分たちの地域を守っていく。それが、商店街の良さなんじゃないかなと思うんです。
横山:そうですね。イベントもね、大変だけど、これからもどんどんやりたいですね。ハロウィンとかその他のイベントも。まちたねさんがきてくれて、私たちもとても心強いですよ。新しい発想も生まれるし、これから、どんなふうに商店街が変わっていくのか楽しみです。
—— 横山さんは長く商店街でお店を開いておられますが、何か長く続ける秘訣はありますか?
横山:私は45年くらい前からお店を開いたんだけどね、とりあえずガムシャラだったから秘訣ってのは難しいけど。不安もあったし眠れない日もありましたよ。
中田:20代でオープンされたんですよね。すごいです。本当に。
横山:だからね、まちたねさんがオープンするってなった時、何か力になれればと思ったんですよ。若い方が頑張ってくださるんだからね。
中田: 大東商店街には、横山さんや多田さん以外にも、商店街を良くしよう!と思っている方たちがたくさんいるので、困ったことがあったらすぐに相談できる環境だったんです。以前は、商店街に新しいお店をオープンするって、敷居が高いように感じていたんです。地域に長く根付いておられる方ばかりで、よそ者になってしまうんじゃと不安に思ったんですが、全然そんなことありませんでした。
—— これから商店街がどうなっていってほしいですか?
横山:どんどん人が増えて、お店も増えてくれたらいいなって思いますね。
中田:そうですね。お子さん連れのご家族も多いエリアですから、若い方に向けたお店が増えて、賑わいがさらにでてきたらいいなと思っています。
〜取材終わりに〜
大東町がどんどんいい街になる、そんな未来を多くの人が願い、手を取り合って活動している。とても温かくて、優しいお話しを伺えました。中田さん、店長さん、横山さん、貴重なお時間を頂戴し、本当にありがとうございました。